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男の長期育休(中篇)

 ~育休取得に理想的な職場環境とは?

 

『もっと女性が働きやすい社会に変わっていかなくてはいけない。
 しかしそれは、女性を多く雇用する会社が割を食う社会であってはならない』
  
当社と長いお付き合いのある会社の役員の方の言葉です。

女性活躍推進は、男性の家庭での活躍推進とセットでなくては進みません。
「女性の育休は短く、男性の育休は最小で」という考えでは、
単なる企業の言い分の押しつけになってしまいます。

 


私の夫は半年の検討(逡巡?)ののち、長期の育休を決心した訳ですが、
実際に取得するにあたっては当然「職場環境」も大きな後押しになりました。

勤め先が違う会社だったら、また違った結論になっていたと思います。
 
では、夫の職場はどのような環境だったのか・・・・
「ワークライフバランスに理解のある」「ファミリーフレンドリーな」といった
大味な表現ではなく、もう少し要素分解して考えてみたいと思います。

これから書く「育休取得に理想的な職場環境」の8つの要素は、

私の観察(?)に、夫の意見も反映し、
より本質的かつ重要な要素ではないかと考える順に並べたものです。

後に出てくる項目は、前提にそれ以前の項目がないと充分に機能しません

すべてを網羅する必要はありませんが(網羅しなくても育休取得は可能です)、

最初の4つが特に重要ではないかと考えています。

 

この記事を読む方で、何らかの形で組織開発・運営に携わる方には

ぜひ、ひとつの参考情報としていただければと思います。

 

また、「自分はいち働き手にすぎない」という方も、以下の8つの項目について

自分はどうか?チームは?部門は・・・?という視点で、

ちいさく草の根で始められることはないか、考えてみてください。

※ 前提情報として、夫の会社は100名未満のWeb通販会社です。
  「大手企業だから可能だった」という要素はありません。

【企業風土】
 
1.社員が自分の仕事に責任を持ち、自律的に働いている

 

 夫の勤める会社は裁量労働制が基本で、 仕事の評価は時間ではなく

 「やるべきことをやっているかどうか」で量られます。

 出社/退社時間は社員が自律的に判断しており、業務状況に応じて
 土日の在宅ワークを含む、テレワークも自由に行われています。

 一方で、プロとして「やるべきことをやっていれば、時間は自由」であるため、
 必要とあらば午後出社や早退、有給取得なども取りやすい風土があります。

 一言で言えば、社員が「プロとして自律・自立している」と言えます。


2.繁閑のメリハリがある

 ある程度、繁閑のメリハリがはっきりしています。
 忙しい時期が続くこともありますが、長時間労働が常態ということはありません

 (声高に「ノー残業推進」の旗が振られることも、ありません)

 
 そのため今回の育休取得では、繁忙期の山場を避けることで
 より業務への影響を小さくするよう、微調整を行いました。

 産褥期対応の育休では、繁閑を考慮することは難しい面がありますが
 今回は妻(私)の復職対応の育休のため、相談しやすかったと思います。


3.「滅私奉公文化」「キャリアアップ至上主義」のいずれも希薄

 事業内容が”ライフスタイル提案型のWeb通販”ということや、創業社長の考え方、
 また社員にはWeb制作・商品企画等のクリエイターが多いことなどが相まって、
 夫の会社の風土は、「日常の暮らしを大切にする」文化が強いと感じます。

 上記は、事業ドメインが強く影響するところになりますが
 より本質的には、「高度経済成長期的な滅私奉公文化」や
 「就職氷河期的なキャリアアップ至上主義」のいずれも希薄
 ということが大きな要因ではないかと感じています。
 

 1・2の前提のみでこの3の要素が無い場合には、

 逆に長時間労働・ワーカホリックな文化に陥る危険性があると思います。

 


4.ゆるやかに事業成長している

 今回、夫の所属部署では昨年度に1名の増強が行われており、
 また、今後の人員計画として、さらなる増員も検討が進んでいます。

 

 今後の事業成長を見越した増員計画が背景にあったため、夫の育休にあたって

 業務面で同僚に過大な負荷をかける形を避けることができたと思います。

 

 女性の産休・育休取得と同じで、「所属部署・同僚に負担をかける」ことは
 育休を取得する上で大きな心理的ハードルになります。

 この点において、夫の会社はゆるやかな成長を続けていたため、
 早め早めの人員増強が予定されていたことは、幸いでした。

 業績が横ばいでは、欠員の補充を行うことができませんし、
 業績低迷中では、なかなかワークライフバランスを考えられないのが現実です。
 (帰ってきたとき自分の席があるのか?という別な不安が生まれます)

 

 ニワトリとタマゴの議論になってしまいますが、

 本来的にワークライフバランスとは、事業成長ありきのものと思います。
 そういった意味で、経営の責任が非常に大きいとも言えます。



【職場の状況】
5.キーパーソンが「仕事と家庭の両立」の実践者である

 夫は育休取得を決心したあと、半期に一度の人事面談や業績評価面談で
 「いずれ子供を授かった暁には、数カ月単位での育休を取りたいと考えている」
 と、事前に宣言(相談)しました(!) (これには私も度肝を抜かれましたが・・・)

 その際、直属の上司(担当役員)と、人事担当の双方から
 長期の育休取得について、承認・応援したいという言葉をいただいたそうです。

 この上司と人事責任者は、お二人とも40代のワーキングマザーのため
 特に実感を持って、応援の言葉をくださったと感じています。

 これは私にとって大きな後押しになり、安心して妊娠を迎えることができただけでなく、

 妊娠判明後すぐに、復職の見通しを立て、計画を関係者に説明することができました。
 夫が事前に会社への打診を進めてくれたことには、とても感謝しています。

 これを「お子さんのいる女性」にと限定してはいけませんが、
 キーパーソンが、一定の家庭責任を担いつつ仕事を続け、
 同時にキャリア形成を実践していることは、やはり大きな要素だと感じます。


6.「育児参画するパパ社員」の先駆者がいる

 夫は、「育休」ということでは社内で男性初でしたが、
 同僚のパパ社員さん達が、既に積極的に育児に携わっていました

 先輩パパ社員さん達が、お子さんが病気の際には早退してお迎えに行ったり、
 突発時は在宅ワークで対応をされていたりということで、職場環境的に
 「長期の育児休業」への地ならしは進んでいたと思います。

 夫の長期育休にあたっては、パパ社員さん達も直接の利害関係者になりますが
 おおむね快く承諾・応援してくださったようで、独身の同僚男性も含め

 「次に子供ができたらウチも・・・!」「時期はお互い相談して・・・」と盛り上がったようです。


【個別的な環境】
7.一定の「信用貯金」があり、関係性が安定している

 夫は中途入社ですが、既に入社6年目になっており
 人間関係・担当業務の両面で、一定の信頼関係ができあがっていました。

 女性は「出産前に信用貯金を作っておきましょう」と盛んに言われますが
 男性でも、事情は全く同じです。
 これが異動や昇格、転職といったキャリア上のイベントと重なっていた場合、
 育休取得のハードルはかなり上がっただろうと思います。

 この点は、女性も同様の悩みを抱えており、難しい課題と感じます。

 

 

8.家族ぐるみの人間関係がある

 夫の会社は、Web通販と連動したイベントを行う事がしばしばあり、
 そういった際、社員の家族の参加(一般扱い)も歓迎しています。
 (滅私奉公型文化ではないので、参加すべしという同調圧力もありません)

 また、夫と結婚した際には、会社にご挨拶にうかがったり
 結婚披露の二次会では、同僚の方にも多数お越しいただいたため
 夫の会社の方とは、私もかなり面識がある方ではないかと思います。

 「××君の奥さん」「××君のお子さん」という”概念”ではなく、
 具体的な、人となりの分かる人間としてのお付き合いがあることで
 より、個別の家庭事情についての相談がしやすくなる面はあると思います。

 
ここまで、夫のケースから「育休取得に理想的な職場環境」を整理しましたが
これらは、女性にとって育休を取りやすい職場環境としても、当てはまると思います。

また、これまでの女性活躍推進の取り組みでは、女性社員に対し
「信用貯金」「感謝の心」「お互いさまの精神」を説くケースも多く見受けられました。
ですが、こうしてみると、それらは要素として大切ではあるものの、
それが機能する前提として、もっと重要な要素が他にもあることが分かります。
 

ここに書いたような組織は、究極の理想形かもしれません。

当社が目指す『企業と働き手の本音と信頼をつなぐ』ことが実現した組織とは、

このような場所になるのではないか、とも思います。



さて、「男の長期育休」シリーズもあと後篇を残すのみとなりました。

後編では、ここまでの考察を踏まえ、長期育休に限らない、
男性の家庭参画のバリエーションについて考えたいと思います。

「夫の長期育休」は、夫婦が協働して家庭を営むためのひとつの手段でしかありません。
どのようなやり方がベストなのかは、家庭によって千差万別のはずです。

各家庭の「最適解」を考えるための、検討要素を整理したいと思います。